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彼女たちが選んだファイブデイウイーク ◆John.ZZqWo 見上げる夜空には数え切れないほどの星が明るく瞬いていた。 今晩は月明かりが強いが、もしそうでなければもっと多くの星を見れるだろうと相川千夏は考える。 そして、それを同じ事務所の仲間と一緒に見れればどれだけ楽しいだろうか、 恋するプロデューサーと二人きりでこの空を見上げながら一夜を過ごせればどれだけかと、彼女は思った。 感傷は一瞬で、相川千夏は視点を地上に降ろすと、改めて彼女の出発点であるダイナーの周囲を見渡した。 ダイナーの目の前には一本の道がまっすぐ通っているが、そのどちらの先もこれといったものは何もない。 平坦な道路の脇に等間隔で街灯が立ち並び、その外には背の低い草が生い茂っているだけだ。人の姿も見当たらない。 振り返れば派手なネオンの看板を掲げたオールドスタイルの店舗。そして、白線を引いただけの簡素な駐車場。 駐車場には錆の浮かんだ動くのかどうかも定かではない軽トラックがぽつんと寂しそうに止まっていた。 相川千夏は手元の情報端末に表示される自分の位置を確かめると「なるほど」と呟いてダイナーの中に戻った。 少し重たいガラス扉を開くと、その端にぶら下がったベルがカランコロンと気持ちのいい音を鳴らす。 店内はダイナーらしい縦長のレイアウトで、入って右側にカウンターがあり、左側には4人がけのボックス席が奥まで並んでいる。 つきあたりにはトイレへの扉。その脇に観葉植物を挟んで、年代モノのジュークボックスとこれも年代モノのコカコーラの自販機。 それらはどちらもまだ現役で働いているようだ。 もっとも、コインを持たない相川千夏にはそれらが実際に働いているところを確認することはできなかったが。 天井にはイミテーションかそれとも実際に機能を果たすのかシーリングファンが吊られている。 所謂、アメリカンスタイルのオーソドックスなダイナーだった。 壁にかけられたメニューにもホットドックやハンバーガー、アメリカンクラブハウスサンド、フレンチポテトにアップルパイ。 ドリンクに各種コーヒーとジンジャエール、レモネード――などといったそれっぽいものが並んでいる。 もっともそうでないダイナーというのも想像できはしなかったが。アメリカンでなければここは喫茶店かファミレスと呼ばれる。 相川千夏はカウンターをぐるりと回りこむとその中、そしてその奥へと――拳銃を構え慎重に――入ってゆく。 カウンターの奥はキッチンだ。そこは彼女が想像するよりも少しばかり広かった。 コンクリートが打放しの床にステンレス製の調理台が並び、その上にはさまざまな調理器具が乱雑に置かれたままになっている。 この店の主人はあまり整理整頓が得意ではないようだ――などと思いながら相川千夏はキッチンの中を調べてゆく。 壁際には肉を焼く為のグリルやオーブン、ポテトを揚げる為のフライヤー、そして天井にまで届く巨大な冷蔵庫と冷凍庫。 冷蔵庫の中には分厚いベーコンの塊やブロック状のチーズ、大きな瓶にいっぱいのピクルスなどが入っており、 冷凍庫のほうにはというと、ビニール袋に入った冷凍のナゲットやパティ、ポテトなどがきゅうぎゅうと詰め込まれていた。 牛乳やジュースなんかも日常じゃそう見かけないサイズのボトルで用意されている。 万が一この店の中に閉じ込められても、ゆうに一ヶ月はすごせそうだ――と、相川千夏はそんな感想を抱いた。 キッチンの中には扉が二つ。 その片方、無骨な鉄扉は裏口の扉だった。 開いて外を見ると、そこは先ほど確認した駐車場で、相変わらずぼろっちい軽トラックが寂しそうに止まっている。 もう一方のとりたてて特徴のない扉の向こうには二階へと続く階段があった。 おそらくは居住スペースなのだろうとあたりをつけた相川千夏の想像はすぐに正解だったと判明する。 二階はほとんど壁の間仕切りがない広いスペースで、印象としては彼女が暮らすワンルームマンションの一室と似ていた。 一応は部屋といえるスペースには安っぽいパイプベッドと今時珍しいブラウン管のテレビ、そして頑丈そうな収納棚。 ためしにテレビのスイッチを入れてみるがどのチャンネルも砂嵐で意味があるものは映らなかった。 はしっこのほうにはビニール紐で縛って詰まれている雑誌。洗濯物がつめこまれたプラスチックのかごなんかが見られる。 窓はあったが、どうやらすぐ外をダイナーの看板が塞いでいるようでその機能を果たしてはいなかった。 そのせいなのかこの部屋は随分と埃っぽい。相川千夏は口元を押さえながら調査を続ける。 窓があるほうとは反対の壁際には、あまり使われた形跡のない小さな流しに、缶ビールでいっぱいの小さな冷蔵庫。 壁を回りこんでその奥はかび臭いユニットバスで、脇には年季の入った洗濯機が鎮座している。 洗面台の上に置かれたうがい用のコップには歯ブラシが一本しか刺さっておらず、住人がひとりだということが推測できた。 相川千夏は部屋のほうへまた戻ると今度はベッドの下を覗き込み、クローゼットを開いてその中も確認した。 店舗とキッチン、居住スペース。どこを調べても人はおらず、どうやらやはりこのダイナーにいるのは自分ひとりだけらしい。 それをようやく確認し終えると、彼女はここでファイブデイウィーク(効率のいい仕事と休息のバランス)を選択した。 キッチンに下りた相川千夏は裏口の扉に鍵をかけ、入り口の扉にもうひとつ店舗の壁にかかっていたベルを付け足すと、 店舗側からは見えないキッチンの隅に椅子を置いてゆっくり腰を下ろした。 ここは待ち伏せをするにはベストスポットだ――そう彼女は考える。 このダイナーの前を横切る道路はこの島の北部にある東西の市街をつないでいるが、 それはつまりその市街から市街へと移動する際には必ず通りかかる場所だということになる。 そして、その何者かが他人との遭遇を、あるいは休息を欲しているのならこのダイナーを無視して通り過ぎることはないだろう。 また、例え素通りされたとしても困ることはなにもない。 ともかくとして、その何者かは間違いなく表の扉から入ってくる。 その何者かが慎重、あるいは卑劣な人物であり裏口から入ろうとしても鍵がかかっているからだ。 裏口に鍵がかかっているのはなにも不自然なことではない。となれば、やはり表の扉しか入ってくる入り口はない。 そして、確実に気づけるようにベルの数を増やしておいたので、それはキッチンの奥からでも容易に察することができる。 後は簡単だ。何者かが入ってきたならキッチンから顔を出して銃で撃てばいい。隠れられる場所は少ないので難しくはないはずだ。 もし、相手も武器を構えていたり簡単には殺せそうもないというならそれはそれで方法がある。 店舗のほうへと爆弾であるストロベリー・ボムを投げ込めばいい。 投げた後はすぐに裏口から駐車場へと避難すれば、自分がその被害を受けることはないだろう。 しかし、相川千夏は待ち伏せ戦法を徹底するつもりはない。これはあくまで最初に休息を取る為の保険だ。 この殺し合いは長期戦になる――と彼女は推測している。それは間違いなく、少なくとも丸一日程度では終わらないはずだと。 だとすればどこかで休息をとる必要がでてくる。逆に言えば、他のアイドル達もそのうち疲弊して休息をとろうとする。 では、確実に他のアイドル達を狩っていくのならば、最初に休息をとってスタミナ的な優位性を得よう。 それが相川千夏の発想であった。 とりあえずは最初の放送があるという6時まではここに留まる。 その後、6時間はアクティブに他のアイドルとの接触を狙って動き、また6時間後には成果がなくとも休息をとる。 それを最後まで繰り返す――これが彼女の選んだファイブデイウィーク(効率のいい仕事と休息のバランス)だった。 @ 相川千夏は浅めに椅子へと腰かけ静かに目を瞑る。 アイドルとしてそれなりの経験をつんだことで細かく休息をとる方法は習得していた。 静寂と暗闇の中で考えるのは自分と同じ立場であろう四人の少女のことだ。 若林智香。五十嵐響子。緒方智恵里。大槻唯。 どの子も、人を殺害できるのかというとそう簡単ではない気がする。 ひょっとすれば、こんなに冷静に他のアイドル達を殺そうと考えているのは自分だけで、他の子らは逆のことを考えているのかもしれない。 智香はこんな状況にくじけそうになっている子を応援し励ましているかもしれないし、 響子はいっしょにプロデューサーを助けようと他の四人を探し回っているかもしれない。 智恵里がどこか暗がりの中で泣いている姿なんかは簡単に想像することができる。 そして、唯はどうだろうか――? 大槻唯。その豊かな金髪と蒼い目が印象的な、プロデューサーが会わせてくれた自分とは全く違う女の子。 彼女とは別に公式でユニットを組んでいるというわけではない。 しかしかなりの頻度で仕事先は同じになる。おそらくはプロデューサーが意識してそう仕事を割り振っている。 初めて一緒に仕事をしたのは彼女へのヘルプで、最初はうまがあうとは思っていなかった。 彼女はその年頃の女の子らしく、思いつきで行動し、めんどうや努力を嫌い、なにをするにしてもルーズだ。 なので、最初は彼女に対するお目付け役として自分があてがわられているのだと理解していた。 しかしその仕事が終わる頃には考えは逆になっていた。 彼女はやはりその年頃の女の子らしく、明るくあることを常とし、はじめてのことにもポジティブで、なんに対しても正直だ。 彼女こそが自分にあてがわられているのだと理解し、それを受け入れるのは思いのほか気持ちのいいことだった。 そして今では無二の親友だと思っている。 むこうはともかくとして自分は今、彼女ほどにいっしょにいて、見ていて楽しい友人はいない。 彼女は常に新しい刺激を求め、それを私に与えてくれる。 オフの日に彼女に紹介されるスポットはどこも今までに行ったことのない場所だし、 逆に私がいつも行く場所に彼女を連れて行けば、私では思いもよらぬ方法で新しい発見をもたらしてくれるのだ。 最後にオフを一緒にすごしたのはいつだったろうか。そう、確か五日ほど前のことだ。 いきつけのカフェで「家で本格的なコーヒーが飲みたい」という彼女にコーヒーを選んであげた。 淹れ方は知ってると言っていたけど、さてその感想はまだ聞いていない。おそらく、もう聞く機会は訪れないだろう。 彼女もプロデューサーの為に殺人を決心しているだろうか? もしそうなら少しだけ気が休まる。 もし彼女が目の前に現れた時、殺しあいはいけないなんて言われれば、 きっと私は迷い、それでも彼女を殺して、そして大きく後悔するだろうから。 それほどに私は彼のことが大切なのだ。親友を殺してもしかたないと思えるほどに。 この決心はたとえ千川ちひろの話がなくとも変わりなかったはず。あの話がなくとも、私は今ここで同じ決断をしただろう。 数え切れないほどにこの運命が繰り返されたとしても、その度に変わらない決断をしただろう。 「……ごめんなさい」 先に謝るなんて卑怯だけれど、きっとその時にはこんなことは言えないだろうから。 ごめんなさい、唯。 私はあなたであろうと殺すわ。 他の誰であろうと、私には私と彼以外に優先するものはないのだから――。 【B-5 ダイナー/一日目 深夜】 【相川千夏】 【装備:ステアーGB(19/19)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:6時まではダイナーで待ち伏せしながら休憩。 2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。 前:夜にしか咲かない満月 投下順に読む 次:アイドルの王女様 前:フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン 時系列順に読む 次:飛べない翼 前:アイドルだけど愛さえあれば関係ないよねっ 相川千夏 次:Joker to love/The mad murderer ▲上へ戻る
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◆rFmVlZGwyw № タイトル 作者 登場人物 148 ボクの罪、私の罪 ◆rFmVlZGwyw 十時愛梨、島村卯月、輿水幸子、星輝子 154 STAND UP TO THE VICTORY ◆rFmVlZGwyw 北条加蓮、神谷奈緒 166 コレカラノタメ×ノ×タカラサガシ ◆rFmVlZGwyw 小早川紗枝、向井拓海、松永涼、白坂小梅 登場させた人物 島村卯月、輿水幸子、小早川紗枝 北条加蓮、神谷奈緒、松永涼、白坂小梅 十時愛梨、星輝子、向井拓海 ★(2回)、★★(3回)、★★★(4回)、★★★★(5回) コメント 名前 コメント ▲上へ戻る
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野辺の花 ◆n7eWlyBA4w その向こう側に何があるのか、誰も知らない。 ▼ ▼ ▼ ペダルを踏む足が止まったのは、疲ればかりが原因ではなかった。 サドルに跨ったまま、額を流れる汗を袖口で軽く拭いながら渋谷凛は僅かに眉をひそめた。 「……気のせいだと思いたいけど。違うよね……ううん、気のせいじゃない」 無視しようとしても粘りつくようにその存在を主張してくる、確かな違和感。 凛は無意識に顔をしかめていた。脳が直感的に分析を拒否しているように感じる。 そもそも、今自分はどの辺りにいるんだろう。 自分を取り巻く嫌な感覚から意識を逸らすように、そんなちょっとした疑問へと焦点をシフトさせる。 水族館を後にしてからしばらくの間自転車を漕ぎ続け、周囲の風景が市街から草原へと移り変わって間もないと思うのだが、 あまりに変わり映えのしない風景のせいで時間と距離の感覚が曖昧だ。 慣れない手つきで携帯端末を操作すると、どうやらまだ水族館と同じエリアであるようで、凛は小さく溜息を付いた。 あまりにも遅々として進まない道のりは、おそらくこのいやに重い円筒形の武器のせいだろう。 運搬用のスリングベルトで肩にかけてはいるものの、本当に重い。 ディパックとこの武器を両方背負った上で自転車を漕ぐというのは、バランスを取るだけでも一苦労だった。 流石に慣れては来たものの、注意力が散漫になってしまうのは如何ともしがたい。 「でも、そのおかげで気付けた、ってことなのかな……」 凛の足を止めたのは、臭いだった。 本来なら、風に撒かれて消えてしまいそうなほど微かな臭い。しかし一度気付いてしまえば、異常としか思えない臭い。 それに気付くことが出来たとはいえ、別に凛は自分の鼻が人よりも利くとは思っていない。 でももしかしたら、実家が花屋だから、人一倍嗅ぐという動作が自然と見に付いていたのかも知れなかった。 しかし、ただ不審な臭いがするというだけなら、凛も怪訝に思いこそすれ自転車を止めようとはしなかっただろう。 ただ、問題は、凛にとって心当たりのある臭いだったということだった。 もっともその臭いとはいくぶん違う。ただでさえ人の臭いに関する記憶は曖昧で、気のせいである可能性だってある。 それでも本質的な部分、胸の奥がむかむかと疼くようなこの感じは同じだ。 こういう臭いは、数時間前に、あの山頂で、嗅いだ覚えがある。 ほとんど本能的な直感に近かった。だけど、それは確かな事実だと思えた。 だからこそ、素通りする訳にはいかない。気付かなかったことにしてしまえば、きっと楽なんだろうけど。 立ち向かわなければいけないと、その時の凛は僅かな躊躇いの後に決意した。 自転車を止め、ディパックと武器の肩掛けベルトをそれぞれの手で握り、臭いの源を探す。 幸いというべきか、あるいはその逆か、開けた草むらで探しものを見つけるのは難しいことではなかった。 すくむ両足に鞭打って、凛は歩を進めた。何を目の当たりにするかは、半ば予測していた。 問題は、その想像を、現実が少しばかり凌駕していたことだけど。 ともかく、凛は違和感の正体を、その目に収めた。 今井加奈。 彼女こそ、この惨劇の最初の犠牲者であり……そして今はその死から半日以上が経過した、物言わぬ屍。 「……………………っ!」 反射的にこみ上がってきた胃酸が喉の奥を焼く、嫌な感覚。 意識を集中しなければ吐き気を押さえ込めないほどに、その姿は痛ましいものだった。 顔こそ傷らしい傷はなく、生前の面影を残しているものの、胸から下の傷は悲惨としか言いようがなかった。 銃で撃たれたのだろう、と推測はできる。それでも、このような破壊をもたらす銃を凛は知らなかった。 その凛の語彙の範囲で表現するなら、人体が「砕かれていた」。そう言わざるを得ないほど、形を失っていた。 すでに赤黒く固まったこの血と肉は、本当にあの華奢な体に詰まっていたものなのか。 凛の記憶にある加奈の面影と結びつけようもないほど生々しい、むせ返るほどの死の実感。 それに、傍にいるから一層分かってしまう、この臭い。 血の匂い、鉄分の匂い、それはあの山頂の一件で嫌というほど嗅いだもので、それだけでも耐えられないのに。 今この時、自分の鼻を刺激しているこの匂いは、それだけのものじゃない。 具体的に何が起こっているかは考えたくもないが、彼女が死んでかなりの時間が立っていることだけは間違いないと思えた。 それから――ああ、嫌だ。これは、これだけは嫌だ。 こんなことがあっちゃいけない。こんなことが、加奈みたいな普通の女の子に起こっちゃいけない。 絶対に、こんなこととは無縁でいなきゃいけない。こんなの、人間にあっていいことじゃない。 おかしいよ、こんなことは絶対に許されない――だって『羽音』が聞こえる。無数の羽音が。 視界に入れないようにしているのに、それでも聞こえる。唸りを上げている。加奈の、加奈の周りで……! 「――――――――z______ッ!!!!!」 気付くと、凛は声にならない声で叫びながら、近くに落ちていた枯れ木の枝を振り回していた。 加奈を守りたかった。もう死んでいるなんて関係ない。ただ救ってあげたかった。 何を? 尊厳を。人として生きた彼女のそれまでを。こんな形で彼女が穢されていくのだけは我慢ならなかった。 「消えろ! 消えろ、消えろ、消えろ!」 叫ぶ。叫んだって何にもならないって分かっているのに。 「消えろ、いなくなれ、これ以上近づくなぁっ!」 それでも叫びながら、音を生み出すものを追い散らす。 だけど、その音は小さくなるわけもなく、一層耳障りに唸りを上げて、凛の耳と精神を苛んでゆく。 振るう枝がめちゃくちゃに空を切るのを感じながら、いつしか凛の視界は滲んでいた。 どれだけ力を振り絞っても何にもならないと、そう悟るまでひとしきり無駄な努力を続けてから、 ようやく凛は枯れ枝を放り出し、そのまま力を失ったようにぺたんと尻餅をついた。 「もう放っておいてよ……もう十分辛い目にあった、悲しい思いをしたじゃない……! 夢も未来も何もかも奪われて、なんで死んだ後でまで、こんな酷いことされなきゃいけないの……?」 こんなのは、あまりにも惨め過ぎる。 アイドルとして人を笑顔にしようと頑張っていた女の子が受けていい仕打ちじゃない。 加奈だけじゃない。死んでいったアイドル達は、みんな看取られることも弔われることもなく、 こうして車に轢かれた野良猫か何かのように、無残にも野晒しにされ続けるというのだろうか。 あのスポットライトも、歓声も、死んでしまった彼女達には浴びせられることはない。 人らしく扱われることすらなくただの死骸として朽ちていくしかない。 あんなに一生懸命生きていたのに。これが結末だなんて、そんなのは報われなさすぎる。 「……未央……っ」 凛は無意識に、いなくなってしまった大事な親友の名を呼んでいた。 どうしようもなかったとはいえ、彼女は……未央は今もあの山の天辺に置き去りにされているのだろうか。 プロデューサーにも、ファンの皆にも、何処にいるのか気付いてもらえないまま。 それが、この島で死ぬということだっていうのだろうか。 「……違う……死んだら後はただのモノだなんて、そんなの違う! そんなのは認めない! 私が認めない! だって、だって私達には――」 叫ぶ。叫びながらも、凛には自分の声がまるで自棄を起こしているように聞こえた。 卯月に、奈緒や加蓮にもう一度会うためには、こんなところで立ち止まっていちゃいけないのに。 死の影が粘りつくように凛の体を這い回り、この場に繋ぎとめようとしているように感じた。 凛は助けを求めるように、加奈の顔へと縋るような視線を送った。 そして気付いた。……いや、何故、この時になるまで気付かなかったのだろう。 もう生気は抜け果てて、あの頃の温かさなんて残っていないはずなのに。 こんなにも体を滅茶苦茶にされるような死に方をして、そんな余裕があるはずがないのに。 正面から撃たれているのに。銃を向けられて、きっと怖くて仕方がなかったはずなのに。 怯えて、震えて、泣きじゃくってもおかしくなんてないのに。 彼女の……今井加奈の死に顔は、穏やかだった。 この殺し合いに放り込まれて、死の恐怖を突き付けられて、今にも命の火を消されるその時に。 それでも、アイドルだった時と同じように、彼女は微笑んだのか。 「――ほろびないものだって、あるんだ」 気付かないうちに、そう口に出していた。 眼の前にあるのは依然として、惨たらしく目を覆うしかないような現実だけど。 そしてその残酷な現実を凛にはどうすることも出来ないこと、それは変わっていないけれど。 息が詰まりそうな臭いも、許せないこの音も、そのままだけれど。 だけど、こうして体は朽ち果てようとしていても、"今井加奈"は死んでいなかった。 胸の中の霧が晴れていくような気がした。 ▼ ▼ ▼ それから。 長いようで短い時を経て、凛は重い腰を上げた。 迷った末、加奈の体はそのままにしていくことにした。 凛は誰も答えてはくれないと分かってはいたけれど、あえて声に出して詫びた。 「……ごめん、加奈。本当は、埋めてあげたい。こんな残酷なことの起きないところに遠ざけてしまいたい。 だけど……そうしたら私、一度は安心して、それからきっと後悔するから。振り返らずにいられなくなるから。 未央をあんな姿で置き去りにしちゃったこと、今以上に辛く感じるに違いないから。……だから、ごめん」 こういう形でしか一線を引くことが出来ない自分は、やっぱり強くはないのかな、と心のどこかで思う。 だけど、今は前を向かなければいけない時だから。立ち止まってはいられない時だから。 決断しなければいけない。何もかもを大事にすることが出来ないのなら、今の自分が本当にするべきことを。 「何かを選ぶことは、何かを選ばないこと……そういうことだって分かった。 だから私は、手が届くはずの友達を選びたい。今までもこれからも、それが私の願いだから」 胸の片隅に、水族館で別れた彼女達のことがちらりと浮かんだ。 特に凛の心に残るのは、二人の少女。岡崎泰葉と、喜多日菜子。 彼女達のこれからを、見届けたいと思った。その気持ちに、きっと偽りはない。 だけど、凛は自分自身の願いのために選択した。彼女達との別れを。 それはもしかしたら、彼女達を選ばなかったということなのかもしれない。 彼女達の運命はもう凛の与り知らぬところへと遠ざかってしまった。 考えたくないことだけれど、凛自身の運命とは、もう二度と重ならないかもしれない。 そして、そのことを、いつか凛は悔やむかもしれない。 選ばなかったことを悔やみ、置き去りにしたことを悔やみ、それでも前を向くしかないのだろう。 まだ自分は、弱くて脆いから。せめて前を向き続ける強さが欲しい。 (だから、加奈。私、もう振り返らない。どんなに頼まれたって、振り返ってなんかあげない。 前だけ向いて、大事な人に手を伸ばす。だけどさ、こんな勝手な私だけど、背中、押してくれると嬉しいな) 返事なんてあるわけがない。苦笑しながら、膝や服に付いた泥や草切れを払う。 それから、もう一度だけ加奈の遺体のそばに屈みこんだ。 凛が手向けたのは、ちっぽけな、みすぼらしい花だった。 この草むらにただ生えていただけの、なんでもない花。 人よりも花に詳しいと思っていた凛ですらよくは知らない、野辺の花。 もっと可憐な花を手向けられたらよかったのにと凛は少しだけ思い、それからこれでいいのかもしれないと思い直した。 (どんなにみすぼらしくても、誰にも目を向けられなくても、それでも確かにここで咲いてる。 ちっとも華やかじゃなくて、それどころか泥だらけで、だけど今、咲いてるんだ。……私達も、そうだよね) 野辺の花でいい。自分らしく咲いていたい。そう思いながらもう一度立ち上がる。 そしてもう一度、今井加奈の姿と、その傍の小さな小さな花を視界に収めて、ほんの少しだけ寂しげな顔をしてから、 凛はすっと踵を返した。目を逸らしたのではなく、再びあるべき道へと向かうように。 気持ちの整理が綺麗に付いたなんて言えはしない。それでも、その足取りは確かだった。 荷物の重さも、今はもう気にならなかった。 それ以上のものを背負っていると思えば、こんなもの重く感じるはずがない。 サドルに跨る。ハンドルを握り込む。ペダルに体重を掛ける。そして、息を吸って、吐く。 「……さあ、行こう!」 見えない力で後ろから押されているかのように、自転車はもう一度走り出した。 ▼ ▼ ▼ あれから、凛と自転車は走り続けた。 加奈の亡骸に出会うまではあんなに長く感じた道のりよりも、もっともっと長い距離を駆け抜けた。 それでも、まだ先は遠い。まずは南の街を目指すにしても、まだ進むべき行程の半分もこなしてはいないだろう。 それに、走りながらでは端末が見れないので正確な時間は分からないが、そろそろ放送が近いはずだ。 あまり悪い想像はしたくはないけど、それでも心を出来るだけ落ち着けて聞きたい。 禁止エリアのこともある。一本道を寸断されるかもしれないことを考えると、今のうちに距離を稼いでおきたかった。 だから走る。荒い息を整えて、一心不乱に前へ進む。 疲れを感じないかといえば、きっと嘘になる。それでも、ペダルを踏み込む足は止まりはしない。 誰に強要されたわけでもない。諦めたくないという自分の意志が凛を衝き動かす。 だけどその源にあるのは、凛ひとりだけの想いじゃないはずだ。 そう思うだけで、何度でも力が湧き上がってくる。 だから、どこまでも信じていく。自分らしくあるために。死んでいった皆のこれまでを、継いでいくために。 野辺の花のように、たとえ誰の目に止まらなくても、自分らしく咲くために。 会いたい人がいるんだ。繋ぎたい絆があるんだ。だから、今はただ前へ。 その向こう側に何も無くても、構わないから。 【F-7/一日目 夕方】 【渋谷凛】 【装備:折り畳み自転車】 【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】 【状態:軽度の打ち身】 【思考・行動】 基本方針:私達は、まだ終わりじゃない 1:山の周りを一周して、卯月を探す。そして、もう一度話をしたい 2:奈緒や加蓮と再会したい 3:自分達のこれまでを無駄にする生き方はしない。そして、皆のこれまでも。 前:No brand girls/パンドラの希望 投下順に読む 次:彼女たちにとって無残で悪趣味なトゥエンティーエイト 前:No brand girls/パンドラの希望 時系列順に読む 次:彼女たちにとって無残で悪趣味なトゥエンティーエイト 前:人は人、私は私 渋谷凛 次:蒼穹 ▲上へ戻る
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眠る少女に、目醒めの夢を。 ◆n7eWlyBA4w 深い森の中。 その開けた一角に建つ、古ぼけた小屋の中で。 藤原肇は、ただ、石像のように立ち尽くしていた。 今の彼女からは、その十六歳という年齢に似合わないほどの落ち着きも、 あるいは穏やかな物腰の影に隠れている強い意志も、感じ取ることは出来ない。 代わりにあるのは、年相応の少女の、相応の心の揺らぎに他ならなかった。 知りたくもない現実を突きつけられて受け入れられずにいる、それはありふれた恐慌だった。 肇の手から、ポリカーボネート製の大盾が滑り落ち、床に倒れて音を立てた。 それは彼女の支給品だったが、暴徒鎮圧用の盾などこの殺人ゲームでどれほどの役に立つものか。 現に今この仰々しい盾は、心に食い込む見えない楔から、肇を守ってはくれない。 第一その透明な素材は、心の痛みどころか、視界を遮ることすら許してはくれなかった。 「――どう、して……そんな……」 辛うじて口に出せる言葉は、しかし何の意味もありはしないもの。 いったいどれくらいの時間をこうしているのか。数秒か、数分か、数時間か。 時間の流れなどもう自分でも分からない。 ただ目の前のある一点を見つめたまま、そんな呟きを漏らすだけ。 深い森の中。 その開けた一角に建つ、古ぼけた小屋の中で。 ロッキングチェアの背もたれに寄りかかって静かに睡る、幼い少女。 いや、正しくは、かつて少女と呼ばれていたもの。 その、清らかな魂の抜け殻。 佐城雪美の傷一つない亡骸を前にして、肇は金縛りにあったように動けずにいた。 ▼ ▼ ▼ パキリ、という小さな音で肇は我に返った。 ハッとして視線を床に落とすと、自分の踵が何かを踏み砕いているのに気付いた。 自分では全く気付いていなかったが、無意識に後ずさりしていたのだろうか。 しかしそんなことは、些細な出来事だった。問題は、たった今踏み潰したものだった。 それは、すでに原型を留めてはいないけれど、注射器に見えた。 何故そんなものがここにあるのか。その小さな疑問は、しかし僅かな時間で霧消する。 少女の、外傷の見当たらない肢体。ならば、一体何が死を招き寄せたのか。 考えるまでもないことだった。足元の、これが真実だった。 誰かが、このいたいけな少女に、この注射器の針を残酷にも突き立てたのか。 中に封じられていた毒薬をこの少女の中に送り込み、酸鼻極まる死を与えたのか。 そう考えるのが自然なのだろう。特に、今この状況では。 誰が誰を殺すのか分からない。それがこの島を支配する理不尽な現実なのだから。 (……違う。きっとそうじゃない) しかし、肇にはそうは思えなかった。 だって、少女の顔は、あまりにも安らかで。 何かをやり遂げて、充ち足りたまま幸せな夢を見ているような、そんな姿に見えたから。 失意と絶望がなかったとは思わない。それと同時に、それだけにも見えない。 直感めいた薄弱な根拠だったが、しかしそれは肇には確かなことに思えた。 だとすると、この注射器の意味は、ただひとつ。 彼女は、もしかしたら、自分自身の意思で、自分自身の命を、奪ったのではないか。 瞬間、肇の心を、幾多の感情が嵐となって吹いた。 彼女が死を選ぶ理由が、おぼろげに見えたような気がした。 それまでは考えもしなかったのに、奇妙なほど当たり前に感じられた。 しかし、そんなことが。だとしたら、あまりにも。 それはあまりにも純粋で、あまりにも過酷すぎるのではないか。 この幼すぎる少女には、あまりにも重すぎる選択ではないか。 ほとんど推測に推測を重ねただけの想像。 しかし、肇の勘は、それが真実であると告げていた。 ならばその勘に根拠を与えるものは何か。 肇には分からなかった。何が確信を与えているのか、理解できなかった。 肇は震える手で、自分のディパックを開けた。 自分のもうひとつの支給品が、この気持ちに光を当ててくれるのではないかと思ったのだ。 肇自身にも、この気持ちが何なのかは分からなかった。 ただ、自分はこの少女のことをもっと知りたいと思った。 知らなければならないと、知ればこの違和感の答えも出ると、そう思ったのだ。 ディパックから引き出されたそれは、一冊のアルバムだった。 表紙に『CINDERELLA GIRLS ALBUM』と記された、一見すると何処にでもあるようなアルバム。 しかし武器を支給されなかった肇の、恐らくは切り札となりうるものだった。 肇は逸る手を宥めながら、一枚また一枚とページを繰っていく。 その中には、ここ最近デビューした150人以上のアイドルの写真やプロフィールがファイルされていた。 まだ確認してはいないが、恐らくは肇自身のページもあるだろう。 あるいはこの島に集められ殺人イベントを強いられている、ほかのアイドルたちのものも。 そうであるなら、目の前で永遠の眠りに就いているこの少女も、例外ではないはずだ。 ほどなくして、ページをめくる手が止まる。 「見つけた……佐城、雪美……さん」 口の中でその名前を復唱する。 アルバムに綴じられている写真の中の少女は、その黒髪といい顔立ちといい服装の雰囲気といい、 亡骸の少女と瓜二つだった。 念のため名簿も確認したが間違いない。彼女は、この60人の中のひとり。 佐城雪美。それがこの少女の名前で間違いないだろう。 肇は固唾を飲んで、そのページに目を走らせた。 大した文章量ではないものの、アルバムにはちょっとしたプロフィールや略歴も記載されていた。 佐城雪美の人となりを把握するには少なすぎる、しかし推測する手がかりにはなる情報。 だが、否応なしに、その僅かな情報は、感傷を呼び覚ましてしまうもの。 いけないと思いながらも、どうしても彼女のことを考えてしまう。 そんなものは、なんの慰めにもならないと分かっているのに。 ――名前、佐城雪美。年齢、10歳。 やっぱり、自ら死を選ぶには幼すぎる。まだ十分に生きてすらいないのに。 一方で、年齢を重ねて現実の汚れを知る前だからこそ、純粋な願いを保てたのではないか、とも思う。 ――身長、137cm。体重、30kg。 本当にお人形さんのよう。こうして椅子に体を預けているのを見ると、そう錯覚しそうになる。 ただ、ここから先、彼女が成長する日は、もう二度と来ない。 ――出身地、京都。趣味、ペットの黒猫と会話。 実家のご両親は、愛娘の身に起こった悲劇をいつか知るのだろうか。 残された猫はどうなるのだろう。大事な友達の帰りを、これからも待ち続けるのだとしたら……。 いけない。こういう考え方は、いけない。 それは、死者に対する勝手な感傷で、自己満足めいた感情移入に過ぎないはずだから。 本当は自分は彼女のことなど何も知らない。何もわかるはずもないのに。 そこまで考えて、肇は、ようやく気がついた。 (あ、れ……どうして……?) いつの間にか、自分の頬を温かいものが伝っていることに。 どうして自分は泣いているのだろう。 こんな想像、断片的なプロフィールから生まれた、ただの一方的な感情移入に過ぎないのに。 自分は結局のところ、生きていた頃の彼女と言葉を交わしたことすらないというのに。 それなのに、なぜ涙が止まらないのだろう。なぜ心が締め付けられるのだろう。 (ああ、分かった……彼女は、私だから。私と同じように、一人の人間で、女の子で、アイドルだから) そう、ふと気付いてしまえば簡単なことだった。 雪美にも、自分と同じように、大切な人が、叶えたい夢が、目指したい場所があったはずなのに。 写真の中で彼女が見せているはにかんだ微笑みは、もっとたくさんの人を幸せにするはずだったのに。 彼女の選択は、尊いと思う。清いものだと思う。 それでも、他のあらゆるものと天秤に掛けるその選択を、彼女がしなければならなかったことが。 そのことが、この世のどんなことより哀しいと、肇は思った。 そして、それが他人事ではないと、自分自身にも繋がることであると、そう気付いた。 先ほどから雪美に対して感じていた奇妙な感傷の正体に、肇はようやく思い当たったのだ。 死んでしまった彼女と、生きている自分。 両者はいまや地続きだった。分け隔てるものなどなかった。 佐城雪美も、藤原肇も、このアルバムの一ページなのだ。 彼女は、自分だ。もうひとりの自分だ。 彼女だけではない。たぶん、この閉ざされた島にいる全員が。 それどころか、このアルバムに綴じられている少女達は、誰もがもうひとりの自分なのだ。 (同じ夢に憧れ、そうありたいと願い、そして目指した。私達は同じ土から生まれた器なんだ……) 肇は、溢れ出る涙を拭うことすら出来ずにいた。 この幼い少女の決意が、自分自身の痛みとして感じられたから。 そしてこの先、この島で殺し合い続ける誰もが、同じ痛みを感じるだろうと想像したから。 この殺し合いの、真に残酷なことが何かを、目の当たりにしたからだった。 気付くと、肇は雪美へと歩み寄っていた。 初めてその姿を目にした時のような畏れは無かった。 彼女の純粋な願いに報いるために、今なにが出来るだろう。その思いだけがあった。 何かがしたい。何かを、しなければならない。 自分が、自分らしく、為すべきこと。 心は、決まっていた。 「……雪美さん」 肇は、雪見の亡骸に語りかけた。 返事はあるはずもない。それでも続ける。 今必要なのは、彼女への意思表明と同時に、自分の心への決着だった。 「私は、貴女のことをよく知りません。貴女も、私のことを知らないでしょう。 だからきっと、私のこの気持ちはただの勝手な感傷なんだと思います。 それでも私は、貴女の願いを無駄にしたくない。他の誰かに悲しい思いをして欲しくもない。 みんなに笑顔でいて欲しいんです。私は、私達は、そんな夢を一緒に見ていたはずだから」 口に出すごとに、心の奥に掛かっていた靄が晴れていくような感覚があった。 彼女の魂に、届いているだろうか。そう信じながら、誠の言葉を伝える。 「だから、私、決めました。大それた考えかもしれないけど……お節介、焼かせてもらいますね」 晴れていく。心が晴れていく。 今の肇には、透き通った目で物事が見えるような気すらした。 そして、自分の為すべきこと、本当にやるべきだと思うことも、見えるような気がした。 (プロデューサー……今この時も、心配、掛けてしまっているのでしょうね。 それでも……ごめんなさい、私、やっぱりおじいちゃん似です。頑固なんです) きっとプロデューサーは、肇が生きて帰ってきてくれさえすればいいと、 その過程で手を汚すことになっても受け入れると、そう言ってくれるだろう。 それでも、仮にプロデューサーだけでなく、世界中の誰もが受け入れてくれたとしても。 自分だけは、自分の本当の心だけは、どうしても曲げられない。そういう性分なのだ。 自分でも、本当に不器用な性格だと思う。 そのせいで、今もまた、きっと敢えて過酷な道を選ぼうとしてしまっている。 それでも、肇は悪くない気持ちだった。奇妙な誇らしさがあった。 大好きな祖父が自分の意志に力を添えてくれているような、そんな気さえした。 (高みを目指すため他の誰かを蹴落とすのが、アイドルの定めだとしても…… それでも、頂点の座は、己を磨き、高め、究めた果てにあるもの。 不断の努力とたゆまぬ歩みを重ねた、その先に輝くもののはず……) この殺し合いは、冒涜だ。 肇の、肇と同じ夢を目指す少女達すべての、汚してはならない願いを辱めることだ。 そう、感じてしまったから。 (殺さなければ生き残れない。生き残るために、同じ夢を見ていたはずの誰かを殺す。 でもそれは、きっと鏡に映った自分を殺すこと。自分自身の心を殺すこと……) 私はアイドルだからこそ、その道は選べない。 私達はアイドルだからこそ、他の誰かにその道を選んで欲しくない。 その思いが、ひとつの芯になる。だから、もう、曲がらない。 (私の、私達の夢を、こんな次元に貶めさせない。願いをこれ以上踏みにじらせない……!) 肇の心は、もう完全に定まっていた。 きっとこれは途方も無い我が儘で、救いようの無い綺麗事なのだろう。 『誰も殺さず、誰も死なせず、誰も悲しませない解決』なんて有り得ない。 分かってはいるのだ。それでも、何かしなければならないと思った。 誰だって、そんなどうしようもない夢を、きっと見ていたいはずなのだから。 そう、どうしようもない夢だからこそ。 誰もが、見ることすら躊躇うような夢だからこそ。 藤原肇は、今この時、[夢の使者]でありたいと思った。 それが自分とプロデューサーの描いた、アイドル・藤原肇の姿だったから。 一人のアイドルとしてこの現実に向かい立つための、自分らしい形だから。 我が儘でいい。綺麗事でもいい。 それでも、人に幸せな夢を見せようとすることを辞めたら、自分は自分でいられなくなる。 それはアイドルとして歩んできた自分達のこれまでに対する全否定に他ならない。 轆轤(ろくろ)に乗った粘土は、触れる手の僅かな力の狂いで、歪み、崩れ、そして戻らない。 だからこそ、自分を完成された器として焼き上げるその時まで、愚かなほどに真っ直ぐでいたい。 アイドルとして、自分自身として、藤原肇として、生まれてきた意味全てを今使おう。 「さようなら、雪美さん。もう、会うことはないでしょう。……だけど、忘れません」 肇は、感傷を振り切るように踵を返した。 落としていた盾を拾い上げ、ディパックの紐を強く握った。 そして、一歩を踏み出す。 決して足取りは軽くなかったが、その一歩には意志の力があった。 大丈夫だ。歩いていける。前に進んでいける。 その事実に僅かに安堵し、しかしその緩みを戒めるように肇は大きく深呼吸した。 「気取らず、気負わず、私らしく……藤原肇、参ります!」 そして彼女は、決然と前を向く。 【C-6(ログハウス内)/一日目 深夜】 【藤原肇】 【装備:ライオットシールド】 【所持品:基本支給品一式×1、アルバム】 【状態:健康、決意】 【思考・行動】 基本方針:殺し合いを回避するために出来ることを探す 1:他のアイドルと接触したい 2:アイドルを殺すことは、自分自身を殺すこと 3:プロデューサーを危険に晒さないためにも、慎重に…… ※仁奈がログハウスを飛び出してから、それなりの時間が過ぎています。 <アルバムについて> 福岡開放時点での(765プロ所属を除く)全アイドルの写真とプロフィールが収録されています。 プロフィールの内容は「ゲーム中のアルバム機能で閲覧出来るもの」+「デビュー後の略歴」で、 公にされていないデータ(プライベート情報や杏の3サイズなど)は記載されていません。 前:ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて 投下順に読む 次:蜘蛛の糸 前:ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて 時系列順に読む 次:蜘蛛の糸 藤原肇 次:Happy! 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◆RyMpI.naO6 № タイトル 作者 登場人物 036 Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6 ナターリア、赤城みりあ 登場させた人物 ナターリア、赤城みりあ ★(2回)、★★(3回)、★★★(4回)、★★★★(5回) コメント 名前 コメント ▲上へ戻る
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彼女たちにとって無残で悪趣味なトゥエンティーエイト ◆John.ZZqWo 「……ふぅ」 差し込んでいたノズルを給油口から離すと向井拓海は軽く息を吐いた。 場所は市街に入ってすぐのところで見つけたガススタンドだ。 ダイナーから出発した彼女と仲間たちは一路病院へと車を向かわせていたが、途中にこのガススタンドを見つけたので給油することにしたのだ。 乗りなれているバイクとは勝手が違い、給油口の位地や開け方に戸惑いはしたものの、それも無事に終わり向井拓海は安堵する。 「よし」 給油口の蓋をしめる。と、同時に併設されている売店に使えるものがないかと探しにいっていた白坂小梅と小早川紗枝がそこから出てきた。 小早川紗枝は両手に水のペットボトルを抱え、白坂小梅は小走りに近づいてくると袖の中からミント味のガムを取り出して見せる。 「これから夜、だから……必要だと、思って……」 「気がきくじゃねぇか。ありがとよ」 向井拓海は白坂小梅の頭をわしゃわしゃと撫でると、そのまま彼女の小さな身体を抱きかかえてトラックの荷台へと持ち上げてやる。 そして、小早川紗枝も荷台に乗り込んだことを確認すると運転席へと戻った。 「大丈夫か?」 助手席で毛布にくるまった松永涼へと言葉をかける。相変わらず憔悴した様子だったが、彼女ははっきりとした声で言葉を返した。 「アンタはアタシのお袋かよ」 「へらず口がきけるならまだ平気そうだな。ほら、水だ」 向井拓海は小早川紗枝から受け取ったペットボトルを松永涼に渡す。そして、彼女がしっかりと手で握ったのを確認するとエンジンをかけてトラックを発進させた。 @ ほどなくして目的地であった病院に到着した4人だったが、まず目的のひとつだった車椅子はすぐに見つかった。 探すまでもなく待ちうけロビーの端に放置されていたのである。 もしかすれば誰かが使っていたところなのかもしれない。どうしてか煙のように消え去っているこの島の元の住人のことが4人の頭をよぎる。 ともかくとして、向井拓海は背負っていた松永涼を車椅子に乗せて、後を白坂小梅に任せる。 病院にはたどりついたが、別にここが安全地帯だというわけではない。 車椅子を押す白坂小梅を後ろに、向井拓海は小早川紗枝といっしょに周りを警戒しながら病院の奥へと向かおうとする。 「ん、なんや変なにおいが……」 と、少し進んだところで小早川紗枝が異臭に気づいた。 残りの3人も言われて気づく。4人はより慎重にその異臭の元へと向かい、しかし途中で“それ”に気づいた向井拓海が走り出した。 その、異臭を漂わせてくるのは、“彼女”が眠っている病室のある方向だった。 @ いち早くたどりついた向井拓海と、彼女を追って遅れてついた残りの3人を迎えたのは黒く塗り潰された無残な光景だった。 火がつけられたのか病室の中はベッドを中心に壁から天井までが黒焦げになっている。 そして、おそらくは火元と思われるベッドの上にいた“彼女”――向井拓海が間に合わすことのできなかった少女の亡骸も同じく黒一色で、 以前以上に人相のわからない……、いや、わかりえないただの黒い塊でしかないものに成り果てていた。 「くそがァ!」 怒声をあげて向井拓海が壁を蹴るとおびえるように病室が揺れ、天井から煤が零れ落ちた。 「いったい誰がこんな真似を……、まだ近くにいやがるのかッ!?」 ベッドに背を向けると向井拓海は怒気を隠すことなく発しながら大股で病室を出て行こうとする。 だが、それを小早川紗枝が前に立ちふさがり押しとどめた。 「紗枝!」 向井拓海が牙を剥き声をあげる。だが、小早川紗枝はひるむどころか逆に彼女を睨み返して「冷静になりよし!」と強く言ってみせる。 「わからへんことだらけどす。もう少し冷静にならへんとあきしません」 思ってもなかった彼女の強い言葉に、向井拓海はなにかを言い返そうと口をぱくぱくとさせ……、結局は大きく息を吐いて肩を落とす。 「すまねぇ。頭に血がのぼっちまった……」 言って、向井拓海は改めてベッドのほうを振り返る。小早川紗枝も残りのふたりも同じようにそこへと視線を向けた。 無残としか言えない、人の亡骸。空虚で、悪趣味なオブジェクトとしか見えないそれに。 「わからねぇってのは誰がやったかってことか?」 「それもそうやけど、まず理由がわかりおへん。どないな理由があってこないなことしはったんか……」 確かに。と、向井拓海は小さく唸った。それを見て松永涼が彼女に問いかける。 「ここに、この……いたってのが、前に言ってた間に合わなかったって子なのか?」 「ああ……」 「じゃあ、もう死んでいたってことなんだよな?」 向井拓海は頷いた。そう、“彼女”はもう死んでいた。小早川紗枝がわからないと言ったのはそういうことだろう。 ここで行われているのは殺し合いだから、その結果として焼死体が出るというのはありえる。けれど、これはそうではない。死んだ後で焼かれたのだ。 ならば、それにいったいどんな意味があったんだろう? 疑問が4人の頭の中に浮かぶ。 「腹いせ……ってのは違う、か?」 「亡くなってた子を火葬してあげた……いうんにはちょっと不恰好やね」 向井拓海と小早川紗枝がそれぞれに言う。だが、どちらもそうと言うには確たるものが欠けていたし、口にした本人もそれが真実とは思えなかった。 いったいどうして? 松永涼は、もしかすればわかるんじゃないかと後ろにいる白坂小梅に尋ねてみる。 3人から注目された彼女はビクリと身体を震わせ、うつむいたまましばらく考えるとぽつりと彼女なりの想像を口にした。 「…………死体が怖かったのかも」 ゾンビみたいにか? と松永涼が聞くと白坂小梅はふるふると首を振った。 「あないな有様を見たら怖くて火をつけるいうんもわかるかもしれへんなぁ……」 小早川紗枝が同意する。ここに寝ていた少女の姿はありていに言えばグロテスクだった。だから、それを見えないように焼いたというのはあるかもしれない。 そうでなくとも死体というのは不気味で怖いものだ。ゾンビなんかを信じていなくとも、焼いてしまおうと思うのも不自然でない気がした。 例えば、手元に火をつけるものがあり、ここであの少女の亡骸を発見し、驚きや恐怖のあまり咄嗟にそれを投げてしまう――というようなことは想像できる。 「とりあえず、わかんねぇことだけはわかったよ」 ため息をついて向井拓海がまとめに入る。ここで問答してもらちは明かないし、悠長にしている時間もない。 「やった奴が見つかったらそいつに聞き出して、場合によっちゃ落とし前つけるってだけだ」 言いながらベッドから離れると、向井拓海は部屋の隅にあったクローゼットを開き、その中からまだ無事だった新しいシーツを取り出した。 そして、またベッドの傍へと戻り、そのシーツを黒焦げになってしまった少女の上へとかけなおす。そして、「すまねぇ」と頭を下げ今度こそ病室を後にした。 その背に続いて、小早川紗枝も車椅子に座った松永涼とそれを押す白坂小梅も病室を後にする。 最後に白坂小梅が入り口をくぐろうとしたところで、彼女はなにかに気づいたように足を止め、後ろを振り返った。 「どうした、小梅?」 松永涼が不審に思って彼女に声をかける。けれど白坂小梅はあわてて「なんでもない」と答えるとまた車椅子を押し、廊下へと出た。 本当になにもなかったのだろうか? 白坂小梅のことをよく知る松永涼は思う。 けれど、よく知っているからこそ、あえて彼女に改めて問いただすようなことはしなかった。 @ 「メシを食うとなんだかんだで落ち着くな。涼はどうだ?」 「ああ、おかげさまでこれから先もなんとかなりそうな気がしてきたよ」 「紗枝の作った、サンドイッチ……おいしい」 「よろしゅうおあがり」 場所を簡易ベッドが並ぶ処置室に移した4人は、松永涼の傷を手当して、今は小早川紗枝の用意したお弁当を食べながらこれからのことを話し合っていた。 手当て……と言っても傷口を洗い直し、真新しいガーゼと包帯で覆ったくらいで、結局たいしたことはきなかったし、それで症状が劇的に回復したなんてこともない。 けれど、白坂小梅が見つけてきた鎮痛剤は効いているようで、松永涼の言葉や様子にも少しだけ余裕が見られるようになっていた。 「ここで二手に分かれる……か」 松永涼の様態も一応は安定してきたので、ここで二手に分かれよう。そういう白坂小梅の提案に向井拓海は腕を組んで唸る。 小さくて臆病な彼女が見せた大きな勇気と決断だ。だから尊重したいし信じたい。けれど、不安があるのも事実だった。 「んー、他の人を探したりするんを急ぎたいいうのは本当のことやけど、ふたりだけ残しても大丈夫なんやろうか?」 小早川紗枝が内心に思っていたことを言葉にする。やはり、自由に動けない松永涼とまだ小さい白坂小梅をふたりだけにするのは危険だと思えた。 「じきに水族館に集まってた連中もこっちに来るはずさ。そこまで心配することじゃない」 けれど、そんな心配は無縁とばかりに松永涼は大丈夫だと軽く言ってみせる。隣に寄り添う白坂小梅も彼女の言葉にあわせてうんうんと頷いていた。 それはどこか言外に足手まといは置いていけと言っているようで、向井拓海は無言で眉根を寄せる。 「だけどよ、その水族館の連中がもう来るっていうんなら、そいつらに手を貸してもらえるってことだよな?」 「確かに出るほうも残るほうもふたりだけいうんは心もとないし、人数増えるんやったらそれにこしたことはあらへんどすな」 向井拓海が言って、小早川紗枝が続ける。 あのスーパーマーケットの前で交わした諸星きらりとの約束が果たされれば、彼女を含む水族館に集まっていた連中はこちらへと向かってくるはずだ。 そうすれば全体の人数が増え、探索に出るほうにも残るほうにも人数が増して余裕ができることになる。 互いに背負うリスクも減る――のだと思い至ると松永涼もなるほどと頷いた。そして、 「……そういえば水族館には誰がいるんだ小梅?」 考えてみて、そういえばそれがはっきりしてないことに気づいた松永涼が隣の白坂小梅に訪ねてみる。 「え、えーと……」 問いかけられた白坂小梅は少し考えてから、ゆっくりと順を追って説明する。 一度集まった面々は、それぞれに目的を持っていったん別れ、そして水族館を次の集合場所にしていたということ。 そして、そのグループにいたのは彼女自身と彼女といっしょに古賀小春と小関麗奈を探していた諸星きらり。 彼女らを襲ったが眠らされていた喜多日菜子と彼女の世話を買って出た岡崎泰葉。そして、同じくその場に残った藤原肇と――、 「市原仁奈……って」 向井拓海が、いや小早川紗枝と松永涼もその名前を聞いて絶句する。市原仁奈は、彼女の名前は先の放送ですでに呼ばれていたからだ。 「仁奈ちゃんいうたら、前の放送で名前が呼ばれた子やね?」 「…………う、うん」 「だったら、なんでそんな大事なことをその時に……って、そんな場合でもなかったか。いや、それはもういい。それよりかだ……」 向井拓海は白坂小梅に噛み付きかけて、しかし思いとどまる。 言葉に発したとおりにそんな場合ではない。いきなりすべてのお膳立てがひっくり返ってしまったのだ。どうしてなどと今は追及してる場合ではない。 ともかく、水族館に集まろうとしていた連中の側で“なにか”があったのは確実だ。 そして少なくともひとりの死者が出ており、他の無事も保障されていない以上、この先ここで待っていても合流できない可能性が生まれたことになる。 「放送で呼ばれたってことは、し……死んだのは放送の前だ。それで、仁奈は連中といっしょにいたんだろ?」 「他のやつらの名前は呼ばれてねぇ。そいつらはまだ無事だって考えてもいいのか?」 「それで水族館まで行けてたらええんやけど……」 小早川紗枝がちらりと松永涼のほうを見る。名前を呼ばれていないからといって必ずしも無事が保障されるわけではない。 「おい、水族館に集まるって言ってた連中はどう動く? なんか先に取り決めてたこととかないのかよ?」 「…………わ、わかんない」 消えてしまいそうな声で答える白坂小梅に、向井拓海は舌打ちしかけて口を押さえる。 感情的に攻めたところで問題は解決しない。それを、彼女は“上に立つ者”だからこそ知っている。 「……じゃあ、こっちから迎えに行くか? 水族館に集まってるっていうなら簡単だぜ。こっちには車があるから30分もかからねぇ」 ひとつの提案が挙がる。ここでトラックという乗り物があるということは僥倖だ。言ったとおりに水族館まで飛ばせば30分もかからないだろう。 集合するという面々がそこにいるのならば、ここで待つよりも速やかに合流できるに違いない。 しかし、問題がないわけではない。 「せやけど、むこうでなにがあったんかわらへんし……、それに……」 小早川紗枝は言いよどむ。“なにがあった”かと想像すれば一番想像しやすいのは、残された4人の中でなにかがあったということだ。 取り押さえはしたものの、殺意を振るっていた子がいたのだ。だとすれば、そこから“事故”が発生したと考えるのが一番妥当である。 向井拓海や松永涼の顔も強張る。同じことを想像したのだろう。白坂小梅にいたっては震えてすらいた。 「なにがあったにしろ、時間もこない経ってるとなんとも言えんのとちがうやろか」 そしてその通りでもあった。そもそも水族館に集合するというのもかなり前の時間のことだ。 連絡係りとして戻った諸星きらりからの伝言が伝わっていれば、今頃はもうこちらに向かっている可能性が高いし、先ほどまでそう思ってもいた。 東西の街を結ぶ道は一本道ですれ違いようもないが、市街の中に入ってしまえば逆に道はいくらでも分岐している。 そして、一度入れ違ってしまえば互いに混乱し、ますます合流することが難しくなるのは明らかだった。 「なんだったら、今こそ別れる時なんじゃないのか? アタシと小梅がここに残って、ふたりで水族館に向かえば、最悪入れ違ったとしても連中はこっちで足止めできるぜ?」 松永涼から新しい提案が挙がる。一見、合理的な案だ。しかしそれもここが殺しあいの舞台でなければ……という条件がつく。 彼女らをふたりきりにするのは不安だから合流を待とうと言い出したのに、合流を急ぐためにふたりきりにしてしまうのではまるで本末転倒というものだ。 トラックに乗って全員でこちらから水族館のほうへ向かってみるのか。 あるいは、向こうの連中を信じてこの病院で彼女らが訪れるのを待つのか。 それとも、松永涼と白坂小梅をここに残して、向井拓海と小早川紗枝のふたりで水族館へと向かうのか。 どうすれば間に合うのか。どれを選べば間に合わなくなってしまうのか。――――それは、とても難しく重たい問題だった。 @ 結局、4人は次の放送までは待つと決めた。無難かつ消極的な選択ではあったが、考慮すべきもうひとつの要素がその判断材料となったのだ。 「ふたりは?」 「ぐっすり、だよ。特に紗枝はアタシにつきあわせてたからな、気は張れても、もう限界だったんだろうさ」 処置室のベッドの上には白坂小梅が丸まっていて、ひとつ隣のベッドの上には小早川紗枝が静かな寝息を立てている。 ここで休憩をとることをふたりは渋ったが、しかし横になってしまえば寝るまでに時間はかからなかった。 この島で目覚め殺しあいが始まってからすでに3/4日が経過している。よほど丈夫でなければ疲労も眠気も無視できなくなる頃合だ。 どちらにせよ近いうちに休息はとらないといけない。なので、向井拓海は水族館から向かってくる連中を待ちながらそれまで休むという選択を決断した。 「………………」 向井拓海はミント味のガムを噛みながら壁にかかった時計を見る。放送の時間はもう近い。そして放送ではまた死んだアイドルの名前が呼ばれるだろう。 それは“間に合わなかった”の羅列だ。どうしようもないことがあるとわかっていても歯がゆかった。今からでも飛び出していけば救える命があるんじゃないかとも思う。 水族館の連中にしてもトラックを飛ばして迎えにいくのが正解だったという可能性もある。 しかし。と、向井拓海はベッドで眠るふたりを見る。前には進む。けれど先走った結果、守るべき仲間が失われることがあってはならない。 特攻隊長は常に先陣を切る役目を負うが、なぜその役割に高い位が与えられるのか。それは特攻隊長には先導者としての役割が大きいからだ。 先頭に立ち、道や他に走る車、時には現れたライバルへの判断を委ねられている。族の安全は一番先を行く特攻隊長が預かっていると言っても過言ではない。 それゆえに、ひとりよがりな走りや暴走は許されない。常に冷静であり、全てのリスクを背負う覚悟が求められる。 「なぁ」 空になったペットボトルをテーブルにコンと置き、松永涼が声をかけてくる。 「なんだ?」 「黙ってたら足が痛むんだよ。気を紛らわせるためにアタシの話につきあってくれよ」 「鎮痛剤が切れたのか?」 「元から焼け石に水だっての。これは医者に麻酔でも打ってもらわないとどうにもならねぇ……って、小梅には言えないけどね」 「いい根性だぜ」 「拓海もずっと怖い顔してるぜ? あんま抱え込むなよ。アンタに助けられたやつはみんな自分の足で歩いていけるんだ」 その足がないくせに。と、苦笑しながら向井拓海は松永涼に向き直る。そして、ミント味のガムをもう一枚口の中に入れた。 「で、話って?」 「夏樹のことだよ。拓海もつきあいあったんだろ?」 木村夏樹。松永涼と並ぶ事務所きってのロックアイドルだ。向井拓海にとってはバイク仲間でもあり、そしてここでもうすでに亡くなったアイドルの名だ。 「前にさー、たまたま事務所で空いた時間が被ることがあってさ。で、いっしょにその時TVでやってた映画を見てたんだよ」 「ふぅん」 「食いついてこないと会話にならねぇじゃねぇか。まぁいいけど」 「じゃあ、どんな映画だったんだよ」 それは別に重要じゃないんだよ。と、松永涼は手を振る。 「映画の中でさ。雪の中を歩くおっさんの足が凍傷にかかっちまうのさ。で、切るの切らないので大の大人が大騒ぎだよ。 その映画を見終わった後のことなんだけどさ。夏樹が言ったんだ。 『アタシだったら切らない。使い物にならなくなっても自分の身体がなくなるのは御免だ』って」 「それで?」 向井拓海は腕を組んで話の先を促す。けれど、松永涼は軽く首を振るだけだった。 「それだけ。ただ、思い出しただけだよ。もっとも、アタシは切るとか切らないだとかうだうだと悩んでる時間はなかったけどね」 松永涼は先のなくなった足をぽんぽんと叩き、「生きて帰ったらいい勲章になるぜ」と言う。 そんな彼女に向井拓海はため息をつくように「強いんだな」とこぼした。 しかし、松永涼はそうじゃないと言い返す。 「そうじゃないんだ。アンタがもうアタシのことを死なせないって言った。だからアタシはもう先のことしか考えられなくなっちまったのさ。 まだアタシには声も魂(ソウル)も残ってる。戻ったら……そうだな、奇跡の生還を果たしたロックアイドルとしてプロモーションのかけなおしだ。 きっと売れる。ライブ会場もいっぱいになって、割れんばかりの歓声がアタシを包むだろうぜ」 とんだ狸の皮算用だなと向井拓海は苦笑する。 「ああ。いいぜ。請け負ったからには絶対生きて島から出してやるよ。戻ってからお前が売れるかどうかは知らないけどな」 苦笑が笑顔に変わり、松永涼も笑いはじめる。 どうやらこの会話に気を紛らわせる効果は十分にあったようで、向井拓海は心の中で自分に気を使ってくれた彼女の心意気に感謝した。 そして、話はもう少しだけ続く。 「夏樹と李衣菜、いっしょに呼ばれたよな」 「ああ、同じ場所で死んだのかはわかんないけど最後まで仲のいいやつらだ」 「寂しくなるぜ。アタシは夏樹も気にいってたけど、李衣菜のことも悪くないって思ってたんだ。夏樹がいるんで口出しはしなかったけどさ」 「ああ、お前小さな子が好きだもんな」 「はぁっ!?」 夕暮れに溶ける病院に松永涼の高い声が響き、向井拓海は声がでかいと人差し指を唇に当てる。 「変な言い方すんなって!」 「事実じゃねぇか。小梅の懐き具合を見てたらわかるってもんだよ。クールなふりして、実はいい“お姉さん”なんだろ?」 「別にそんなの普通だっての……。つーか、今思い出したけど、前に事務所に捨て猫拾ってきたヤンキーアイドルがいるって聞いた――」 「その話はすんな! ブン殴るぞ!」 向井拓海の大きな声が響き、今度は松永涼がにやにやとした顔で人差し指を唇に当てる。 「声がでけぇよ。小梅たちが起きんだろうが。病院では静かにしろよ。優しい優しい拓海おねーさん♪」 「帰ったらブン殴るから覚えとけよ……」 「……けど、アイツらがいなくなると思うと寂しくなっちまうな」 「ああ、ツーリングに誘う相手もいなくなっちまう。なぁ、帰ったらケツに乗せてやろうか? バイクはいいぜ」 「誰かに運んでもらうってことをツーリングとは呼ばないんじゃないか? その時は義足でもなんでも使って自分でバイクに乗るよ」 だったら、ますますお前を連れて帰らないとだな。と、向井拓海は笑う。ああ、大船に乗ったつもりでいるさ。と、松永涼も笑った。 そして、ひとしきり普段のように会話して、放送も間近になろうという頃。 「マジな話になるんだけどさ」 そう切り出した松永涼の顔はどこか逼迫していて、心なしか顔色も悪くなっている気がした。 なんだ? と向井拓海は構える。まさか、今更手当ての甲斐はなく死んでしまうとでも言い出すつもりだろうか? だから? けれど――、 「…………悪いけど、トイレまで連れてってくれ」 「……………………」 「我慢してたんだよ」 「水ばっか飲んでるから…………」 「喉が渇くんだからしかたないだろ。それよりも頼む。けっこう限界なんだよ」 「ロックスターはおしっこしないとか言えよ……ったく」 向井拓海はやれやれと立ち上がると車椅子の取っ手を掴み押し始める。 幸いなことに処置室のすぐ傍には採尿用のトイレがあるので、間に合わないということはないだろう。彼女をトイレに座らせることを思うと憂鬱だったが。 「言っとくけどさ。……“聞くなよ”?」 「聞かねぇよ…………」 そして、彼女たちがひと時の休息をとる病院は赤い光から藍色の闇の中に沈んでいく。 3度目の放送を前に、向井拓海と松永涼の胸には最悪の予感と、それに耐える覚悟、そこから先に進むための信念があった。 【B-4 救急病院 処置室/一日目 夕方(放送直前)】 【向井拓海】 【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)】 【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2、ミント味のガムxたくさん】 【状態:全身各所にすり傷】 【思考・行動】 基本方針:生きる。殺さない。助ける。 0:なんでアタシがこんなこと。 1:放送を聞いて対応する。(誰かを助けることを優先。仲間の命や安全にも責任を持つ) 2:仲間を集めるよう行動する。 3:スーパーマーケットで罠にはめてきた爆弾魔のことも気になる。 4:涼を襲った少女(緒方智絵里)のことも気になる。 ※軽トラックは、パンクした左前輪を車載のスペアタイヤに交換してあります。 軽トラックの燃料は現在、フルの状態です。 軽トラックは病院の近く(詳細不明)に止めてあります。 【松永涼】 【装備:毛布、車椅子】 【所持品:なし】 【状態:全身に打撲、左足損失(手当て済み)、衰弱、鎮痛剤服用中】 【思考・行動】 基本方針:小梅を護り、生きて帰る。 0:こんなこと小梅には頼めねぇだろ。 1:放送を聞いて対応する。(足手まといにはなりたくない) 2:申し訳ないけれども、今はみんなの世話になる。 3:みんなのためにも、生き延びる。 【小早川紗枝】 【装備:ジャージ(紺)】 【所持品:基本支給品一式×1、水のペットボトルx複数】 【状態:熟睡中】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを救い出して、生きて戻る。 1:放送の時間になったら起きて対応するつもり。(脱出方法を探すことを優先。リスクよりも時間を重視) 2:『天文台』に向かいたい。天文台の北西側に『何か』があると直感。 3:仲間を集めるよう行動する。 4:少しでも拓海の支えになりたい 【白坂小梅】 【装備:拓海の特攻服(血塗れ、ぶかぶか)、イングラムM10(32/32)】 【所持品:基本支給品一式×2、USM84スタングレネード2個、ミント味のガムxたくさん、鎮痛剤、不明支給品x0~2】 【状態:熟睡中、背中に裂傷(軽)】 【思考・行動】 基本方針:涼を死なせない。 1:涼のそばにいる。 2:胸を張って涼の相棒のアイドルだと言えるようになりたい。 ※松永涼の持ち物一式を預かっています。 不明支給品の内訳は小梅分に0~1、涼の分にも0~1です。 前:野辺の花 投下順に読む 次:彼女たちから離れないトゥエンティーナイン 前:野辺の花 時系列順に読む 次:彼女たちから離れないトゥエンティーナイン 前:みんなのうた 小早川紗枝 次:コレカラノタメ×ノ×タカラサガシ 向井拓海 松永涼 白坂小梅 ▲上へ戻る
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キャラクター別SS追跡表 ↓SSを追跡したいキャラを選んでください。 渋谷凛 № タイトル 作者 登場人物 001 オープニング ◆yX/9K6uV4E 渋谷凛、千川ちひろ 008 私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM 島村卯月、渋谷凛、本田未央 043 阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E 渋谷凛、島村卯月、本田未央、榊原里美、新田美波、水本ゆかり 056 彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド ◆John.ZZqWo 渋谷凛 099 バベルの夢 ◆n7eWlyBA4w 渋谷凛 122 バベルの果て ◆yX/9K6uV4E 渋谷凛 137 傷だらけの天使 ◆RVPB6Jwg7w 渋谷凛、諸星きらり、藤原肇 144 i/doll ◆yX/9K6uV4E 岡崎泰葉、喜多日菜子、双葉杏、渋谷凛、相川千夏 150 人は人、私は私 ◆j1Wv59wPk2 岡崎泰葉、喜多日菜子、双葉杏、渋谷凛、相川千夏 159 野辺の花 ◆n7eWlyBA4w 渋谷凛 169 蒼穹 ◆yX/9K6uV4E 渋谷凛 175 彼女たちが後もう一手のフィッシング・サーティフォー ◆John.ZZqWo 大石泉、姫川友紀、川島瑞樹、高垣楓、矢口美羽高森藍子、日野茜、栗原ネネ、小日向美穂、渋谷凛 186 Precious Grain ◆j1Wv59wPk2 渋谷凜 194 DEAD SET ◆yX/9K6uV4E 渋谷凜 201 彼女たちが生きてこそと知るクラッシュフォーティー ◆John.ZZqWo 小早川紗枝、向井拓海、松永涼、白坂小梅、諸星きらり、藤原肇小関麗奈、古賀小春、北条加蓮、神谷奈緒、渋谷凜、和久井留美 204 THE 愛 ◆j1Wv59wPk2 渋谷凛、北条加蓮、神谷奈緒、和久井留美 210 彼女たちのせいでしかないあの夏のフォーティワン ◆John.ZZqWo 渋谷凛 217 その時、蒼穹へ ◆yX/9K6uV4E 渋谷凛 ▲上へ戻る
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彼女たちは孤独なハートエイク・アット・スウィート・シックスティーン ◆John.ZZqWo 蠍の尻尾が――十時愛梨の構える機関銃の銃口が、三村かな子の背中を狙い、しかしふるふると震えている。 撃つべきか、撃たざるべきか? 迷うことなく撃つべきだし、撃って殺してしまうべきだ。殺してしまうのは恐ろしいことだが、それを厭ってはいけない。 実際、これまではなにも厭わずに引き金を引くことができたではないか。ならばどうして迷うのか。 殺人に対する禁忌? いざ人を殺してしまいもう怖気づいたのか? それとも反撃が怖いのか? 違う。それはどれも十時愛梨の心の中にあるものだが、今引き金を引かない理由としては正しくない。 十時愛梨が三村かな子の背中に銃弾の雨を浴びせないのは、その理由はただ“なにかがおかしい”からだ。 そして、そのなにがおかしいのか? それすらも霞を掴むがごとくに不明瞭で、故に結局引き金は引かれないのであった。 @ 十時愛梨は、震える銃口を三村かな子の背中に会わせようと両手で機関銃を保持し、それでも上手くいかないことに焦りを感じていた。 そうしているうちに三村かな子は道を先へと進んで行ってしまう。次の曲がり角までもうそれほどの距離もない。 いっそ身体を道の中に出してやたらめったに撃とうか。 そう考えた時、十時愛梨はこの機関銃に十分な弾丸が入っているのか、それが気にかかった。 城ヶ崎美嘉と三船美優を襲った時、あの時は全て撃ち尽くしたのでその後で弾倉を交換した。弾倉の交換は銃をよく知らなくとも簡単にできた。 そしてその後、木村夏樹と高森藍子を追い詰め、彼女らの前で多田李衣菜を撃った後は? 交換――していない。 では、今この機関銃にどれだけの弾が残っているだろう? あの時は特に後先を考えずに連射したが、かなりの弾を撃った気がする。 「――――――ッ」 十時愛梨は構えていた機関銃を地面に置き、自動拳銃を取り出した。 こちらの弾は十分に残っているはず――だがしかし、もう一度銃を構えなおした時、目の前の道に三村かな子の姿はなかった。 ため息を吐き、機関銃の弾倉を抜いて残弾を確認する。まだ弾は半分ほど入っていて、十時愛梨は繰り返しため息を吐いた。 十時愛梨は民家の中に戻り、また同じ場所で毛布を被って壁にもたれていた。 一度張り詰めた緊張の糸が切れ、自身の拙さを目の当たりにすると、去って行った三村かな子の後を追おうという気にはなれなかった。 身体の疲れも取れ切っておらず、それどころか時間を追うごとに増していくばかり。 1時間は身体を休めたはずで、いつものハードスケジュールに比べればこんなくらいなんともないはずなのにどうしてだろう? そんなことは決まっている。 プロデューサーさんがいないから。 なによりちっとも楽しくないから。望んだことではないから。希望はもうすでに他に託したのだ。故に前に進む力があるはずもない。 ぐらぐらと頭を揺する眩暈すら覚える。 そういえば朝食もとってない。それを思い出すと、十時愛梨はリュックから水と与えられた食料を取り出して気だるげに食事を始めた。 ブロック状の栄養食を齧り、口の中でただもさもさと広がるそれを機械的に水で胃へと流し込む。 味気なく、とてもおいしいとは言えないのに、身体が欲しているのか、普段の習慣の賜物か、それが滞ることはなかった。 作業のような食事をしながら十時愛梨が考えるのは、さっき見た三村かな子のことだ。それだけが頭の中でぐるぐる回っている。 おかしい。不自然だ。どうしても納得できない。 三村かな子はあんな風に――そこは憶測でしかないが、他人を積極的に蹴落とそうとする人間だったろうか? とてもそうは思えない。命がかかってなくても、人と競争するなんて苦手――記憶の中の三村かな子はそんな人間だ。 けれど、それはなんとでもなるだろう。 人間の本性なんかわかったものではないし、なにより他の人間からすれば十時愛梨が人を殺すなんてことも信じられないはずだ。 知ればきっと、「そんなまさか」「信じられない」「そんな子じゃない」と皆、口を揃えるはずである。 だから、彼女が急な決断を下せるかはともかく、絶対にここで人を殺すことを拒否できるんだとは言い切れない。 問題は――問題となった発端はあのきびきびとした、まるで映画の中の兵士みたいな動きだ。彼女はあんな風に動けただろうか? そんなわけがない。アイドルだからダンスもするし、なにをするにしても体力勝負なところはある。 けれど、それでも三村かな子は決してあんな動きはできなかったはずだ。 これも人の本性、あるいは裏の顔なんだろうか? 彼女は本当はミリタリマニアで、そういう趣味を隠し、見てない場所で練習したり、知識を蓄積していたんだろうか。 メンタルにしてもフィジカルにしても、実はそうだったんだと言われればどうしようもない。そんなものなのだと受け止めるしかない。 しかし、けれどやっぱりあれは不自然すぎる。まるで、犬が空を飛んで、鳩が海を泳いでいるかのようにありえない。 ひょっとしてさっきのは夢だったんだろうか。それとも頭が朦朧としてるせいで、誰かと見間違えたのだろうか。 十時愛梨はペットボトルの水を一気に飲み干し、思考を続ける。 あんな風に動けそうな子は知らないけれど、じゃあ誰と見間違えたんだろう。 城ヶ崎美嘉か、三船美優だろうか。いや、そんなわけがない。じゃあ、高森藍子だろうか。違う。彼女だけは見間違えない。 ここには他に誰がいただろうか。記憶を順に遡る。 あの教室のような部屋で、……そう渋谷凛がいた。高垣楓の後ろ姿も見た。諸星きらりがいることはすぐにわかった。 そういえば、諸星きらりと仲のいい双葉杏が床に寝そべっていたのも印象に残っている。 矢口美羽、五十嵐響子、ナターリア……他にもたくさんのアイドルがそこにいた。 けれどやっぱりあんな風に動けそうな子はいなかったように思う。 じゃあ、 ――三村かな子はどこにいたっけ? 「あれ……?」 十時愛梨の口から声が漏れる。なぜか急に違和感が不安に変わったような、世界が傾いだような気がした。 三村かな子はあの教室のような部屋のどこにもいなかった……気がする。少なくともあそこで見たという記憶はない。 それは……、しかし、いや、そんなわけがない。ただ見ていないというだけだ。あそこにいなかったはずがない。 床の上で目を覚ましてから千川ちひろが話を始めるまでには少し時間があって、だから誰かに話かけようとして、 これはなんなんだろうって聞きたくて、でも高垣楓の姿は離れたところにあって、なので今度は友人である三村かな子の姿を探そうとした。 でも、結局、彼女の姿は千川ちひろが話をはじめるまでには見つからなかった。 「まさか……、あそこにいなかったなんてことは…………あれ?」 そういえば、三村かな子の姿を見ていないのはいつからだろう。確か、長くロケに出ると聞いてそれっきりだ。 およそ一週間前。 ロケに行く準備があるんで今日はたいしたものは作れなかったんですけどねって彼女は言って、そして大量のドーナツを持ってきた。 そのあまりの量に事務所のみんなは驚いていて、けど彼女は気にした風もなく、いない間はみんなでこれを食べてくださいねって言ったのだ。 結局、そのあまりに大量のドーナツは、しかし不思議なことに2日ほどでなくなったのだけど……その日から彼女の姿は見ていない。 ロケに出てからメールは一切こなかった。帰ってきたという報告もなかったし、会ってもいない。 だとすると、もう一週間は会っていないことになる。 「え……?」 行ってくるよと言った彼女はよく知る彼女で、今ここにいる彼女は全然知らない彼女で。 一体なにがあったのだろう? 彼女――三村かな子に。いや、それだけじゃなく事務員の千川ちひろにしたって今はもう知らない彼女だ。 思い返してみればここ数日、事務所で他のアイドルと会う回数が減っていたような気がする。 あまりに忙しいのでせいぜい一日の始めか終わりくらいにしか事務所には顔を出さないけれど、そこにいるのは千川ちひろだけだったような。 昨日の晩に事務所に戻った時、そこには千川ちひろしかいなかった。 一昨日の朝には市原仁奈と挨拶を交わした記憶がある。彼女をクッションと間違えて以来、ソファには気安く飛び込めなくなった。 その前の日はどうだろう? 確か、移動中にちょうど水本ゆかりといっしょになった記憶があるが、……事務所には誰かいただろうか? 「なんだろうこれ……?」 ぐらぐら、ぐらぐらと地面が揺れる。 床が波打ち、なにもかも足場が消えていくようで、今にも天井が覆いかぶさってきそうで、十時愛梨は毛布を被ったまま床に伏せた。 「どうしてこんなに気持ち悪いの?」 なにかがおかしい。なにかが食い違っている。なにかを勘違いしている。そんな不安が十時愛梨を揺さぶる。 それは私だけ? それともみんな? 元々、前に進むことも、出口にたどり着くことも期待していないけれど、でもこのままでいいのかな? 誰か、本当のことを知らないですか? ねぇ、プロデューサーさんは知っていたんですか? どうしてあの時、私に「生きろ」って言ったんですか? プロデューサーさんは何を知っていて、私に「生きろ」って言ったんですか? どうして「生きろ」って言ったんですか? どうして「生きろ」って…………? 私、生きてないといけないんですか…………? 【G-3・市街地・民家の中/一日目 午前】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】 【状態:疲労、不安】 【思考・行動】 基本方針:生きる。 1:????????????? @ やや古びた図書館の前を通り過ぎ、三村かな子は市外の中を北進していた。 そして、このまま道なりに進めば島を南北に縦断してる道路に続く――というところで、なぜか角を左に曲がり西へと進路を変える。 左右にほとんどの店がシャッターを下ろした商店街。この道の先は彼女のスタート地点である学校へ続く道だった。 緩やかなカーブを描き少しずつ角度を増していく坂道を、三村かな子は来た時とは逆に上っていく。 学校になにか目的があるのだろうか? しかしそうではないらしい。 三村かな子は校門を潜ると、周囲を警戒しながらグラウンドを渡り、そのまま校舎の脇を抜けてその裏側へと進んでいく。 影が落ちひんやりとした校舎裏の、更に奥まったところ。学校の敷地の一番奥には錆の浮かんだ鉄扉があり、白いペンキで登山道と書かれている。 それに鍵がかかっていないことを知っているかな子はそのまま押し開け、その向こう、まるで獣道のように細い山道を上り始めた。 「………………疲れるなぁ」 でこぼことした道を上り始めると途端に息が荒くなる。 5分も経たないうちに三村かな子は、やっぱり舗装された道を行けばよかったかと後悔しはじめた。 しかしこの学校の裏から通じる登山道なら歩く距離そのものは半分以下になる。 それにゆるやかな坂道ときつい坂道、上る高さは結局変わらない。だったら、歩く距離が短いほうが疲れない……はず。 加えて、地図に載ってないこの山道を他のアイドルは知らないだろうから不意に遭遇することもなく、道中は安全だと言える。 なにより今更また道を戻る気にもなれない。 この山道を上り切ればすぐに温泉だ。今回こそは入ろう。 三村かな子はそう自分を元気づけると、トレーニングで幾度か上った時のことを思い出しながら重たい足を進めた。 【F-3・登山道/一日目 午前】 【三村かな子】 【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス】 【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り) M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11 コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1) 医療品セット、エナジードリンクx5本】 【状態:疲労】 【思考・行動】 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。 0:温泉に入りたいよぉ……。 1:温泉に向かい、そこを拠点とし余分な荷物を預け、できればまとまった休息を取る。 前:スーパードライ・ハイ 投下順に読む 次:バベルの夢 前:魔改造!劇的ビフォーアフター 時系列順に読む 次:バベルの夢 前:ファイナルアンサー? 三村かな子 次:魔法をかけて! 十時愛梨 次:揺らぐ覚悟、果ては何処に ▲上へ戻る
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RESTART ◆u8Q2k5gNFo 数分後に迫った放送を前に、向井拓海・小早川紗枝・松永涼の三人は今後の方針を話し合っていた。 「もしここが禁止エリアになったら何処に行くんだ?東か南の方へ行ってみるか?」 「人を探すんなら、それがええかもしれへんなぁ」 涼の提案に紗枝も頷く。 現に明け方から早朝にかけての捜索では誰も見つからなかった。 といっても完璧にエリア全体を捜索しきったわけではないし、明るくなるまで隠れていた者もいるかもしれない。 「引きこもって隠れてた奴もいるかも知んねーけど、どのみちアタシらだけじゃ全部探し切んのは無理かもな」 拓海は手に持った地図を、テーブルに広げた。 大雑把にいえばこの島は、北東・北西・南の“街”、温泉や遊園地のある“山間部”、 ホテルや牧場のある“小島”の三つに分けられる。 最北端、最南端にある灯台や山頂の天文台などは籠城するには最適だが、禁止エリアのルールがある以上は 身動きできなくなる前に街の方へ向かわざるを得ない。 ホテル・牧場付近にある小島はおそらく誰もいないと考えた。わざわざ好きこのんで行く物好きはいないし、 アイドル同士の殺し合いが目的なら、そんなところに配置する意味はない。 皆で潰しあって最後に残りました… なんてことは主催側も望んではいないはずだ。 以上の理由から、上記の山間部や小島は後回しにして街の方を捜索しながら道中の施設 (ダイナー、キャンプ場、遊園地・動物園、飛行場)を周ることにした。 方針としては、『人を探す』ということに変わりはない。 「近いのは東の街だな」 「博物館の方はいかんでもええの?」 「あー…そっちか」 先の捜索では南側を重点的に行ったため、B-4北側の映画館や博物館は捜索していなかった。 B-4が禁止エリアに指定された場合は別としてそうでない場合、このままB-4に留まり、北西部の捜索を続けるか。 それとも東か南へ向かうのか。 「そろそろ始まるぞ…」 時計をみた涼はそういって話を遮った。拓海と紗枝もそれを聞いて話を止める。 民家の一室で彼女達はカーテンの隙間から次第に強まる日差しを感じていた。 時間に近付くにつれて三人の緊張が高まっていく。 (小梅……!) 涼は顔の前で祈るように手を組み、島内にいるであろう相棒へ呼びかけていた。 大丈夫。きっと大丈夫。あいつにも同じように心優しく強い仲間がいる。そうに違いない。 だから必ず見つけ出す。 アタシが小梅を護るんだ。 はたして想いは届くのか。 『はーい、皆さん、お待たせしました! 第一回目の放送です! 』 遂に、その時が来た。 # 『では、また6時間後、生きている人達は会いましょうね 皆さん――――最期まで、生き延びて見せなさい』 「---------------マジかよ」 予想外の犠牲者の数に三人は驚きを隠せなかった。 十五人。つまり全体の四分の一はすでに殺されたということだ。 ある程度の数は覚悟していた。しかし六時間で十五人ということは自分達が考えていた以上に “殺し合い”が進んでいる。 やたらと楽しそうな口調の千川ちひろに怒りを感じたが、同時に力不足を思い知らされた。 (夏樹、李衣菜… お前ら逝っちまったのかよ) 名前を呼ばれたアイドルの中に、木村夏樹と多田李衣菜がいた。 二人は拓海の友達だった。 夏樹とはバイクという共通点からツーリングに行ったこともある。 強面の拓海が事務所に馴染めたのも夏樹が積極的に話しかけてくれたおかげだ。そこから李衣菜とも話すようになり、 皆と打ち解けて話せるようになった。 最高に楽しい、いい奴らだった。 二人がどんな最後を迎えたかはわからない。わからないが、 きっと二人とも、こんなクソッタレな殺し合いなんかに負けず最後まで“ロック”を貫いたのだろう。 (夏樹…李衣菜… お前らの“ロック”はアタシが引き継いでやる) 二人だけではない。全員の魂を引き継いでいくのだ。 呑気にふんぞり返っているような奴らのいいなりになど、なるものか。 (よかった…) 涼は小梅が生き残っていることに一先ず安堵した。 しかし、状況は何も変わってはいない。 あくまでも今回名前を呼ばれなかっただけだ。今だって何者かに狙われているのかも知れない。 それに加えて、同じ事務所の仲間が大勢死んだということもある。 ともに切磋琢磨してきた仲間達が死んでしまったという事実を前に、喜ぶことはできない。 (情けねぇのはわかってるさ、けどよ…) もちろん小梅さえ無事ならと考えたわけではないが、 知っている奴も知らない奴も命は平等だ。人が死んでいいことなど何もない。 小梅だって自分だけ助かれば他人はどうでもいいなどと考えてはいないはずだ。 (ごめんな。夏樹、リーナ。お前らとはもっと話したかったよ) バンドをやっていた涼とロック好きな夏樹と李衣菜とはすぐに仲良くなった。 孤立しがちな涼にとって二人と話すのは小梅と話すのとはまた違った楽しさがあった。 (リーナ、約束は守るよ。夏樹の分までたっぷり聞いてやる) 李衣菜のCDを買ってやると三人で約束した。CDデビューを報告しに来た時の彼女の嬉しそうな姿は今も忘れていない。 名簿と地図に印を付けていく。一番最後に、彼女らの名前に線を引いた。 「ほな、続けよう」 静寂を破ったのは紗枝の一言だった。 亡き友を偲ぶ二人の気持ちは痛いほどわかる。 今は何も考えたくないかもしれない。同じ立場にならきっとそうなる。 出会って間もないが、二人に“心”を救われている。今度はこちらの番だ。 もし二人が立ち止まってしまったのなら、自分が手を引いて前へ進ませてみせる。 拓海と涼は顔を上げた。 「…そうだな、さっさと決めちまおう」 「どこまで話したっけか?」 「博物館の方は行かんでええのかってところまでやけど-----------ちょいええかな?」 紗枝はずっと考えていた疑問とそれに対する答え合わせを二人に求めた。 「禁止エリアって何を基準に選んどると思う?」 「さっきも話したじゃん。一箇所に固まられるのを防ぐ---------------」 言いかけたところで涼と拓海も気がついた。 籠城を防ぐために封鎖するのだとしたら、裏を返せば人が集まっている可能性があるということだ。 「つまり、指定されたとこには誰かいるっつーわけか」 「せやね、わざわざ街ん中を選ぶちゅうことはこん辺の子らはここに集まっとるんやないかな」 そういって地図上の『C-7』を指差した。 「人がおるんなら、時間前に移るはずやろ?こことかどうやろ?」 紗枝は『C-7』を指差したまま左へスライドさせた。 「C-6か。その辺なら移動してきた奴らと会えるかもな」 「行くか?」 「ああ、行こうぜ」 行き先は決まった。 # 「まさか使えるとはね…」 相川千夏は事務所の一室で呟いた。 彼女は東にあるスーパーマーケットへと到着した後、事務所へと向かった。 事務所には誰も居なかったが、奥に部屋を発見し中を覗くと、 多数のモニターが店内の様子が映し出していた。 どういうわけかは知らないが、監視システムは生きているらしい。 (使えるんなら有効活用させてもらうけど) 防犯カメラで見る限り店内が荒らされた様子はない。 数あるモニターの中から一番重要な映像を探す。 (入口と…裏口にもカメラは付いてるのね) ここさえ見張っておけば誰が何人入ってきたか解る。 分が悪ければストロベリー・ボムで一気にやって仕舞えばいい。 (ここで張ってみる…か?) 病院の遠いこのエリアなら、薬や医療品を求めてくる者もいるだろう。 唯一怖いのは近くでおきている火事だけだ。火はおさまってきているがこちらまで延焼してくるようなら早めに逃げるとしよう。 (“お客さん”…来るかしら?) 千客万来か、門前雀羅か-------------- 答えは誰にもわからない。 【C-6・スーパーマーケット内事務所/一日目 午前】 【相川千夏】 【装備:ステアーGB(19/19)】 【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。 1:対象の捜索と殺害、殺し合いに乗っていることを示すため、東へ向かう。 2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。 ※店内から事務所に通じる通路がいくかあります ※まだ店内の構造をよく把握していません # 「やっぱり誰もいねぇな」 端末の位置情報を頼りに東へ歩を進める。 拓海の提案で、最後に移動しながらこれまで行けなかったところを捜索してみたが 結果は変わらなかった。 「わりいな。道草食っちまってよ」 「気にすんな。戻ってこないかもしれないんだし、やれることはやっといたほうがいいだろ」 「ちゃんと道に出たし、これでええんやないの?」 三人は東へ続く一本道を歩きながら話をしていた。 「姉妹みたいだな。お前ら」 「仕方ねぇだろ。これしかねぇんだからよ」 拓海は青のジャージを、紗枝は紺のジャージを着ていた。 色とサイズは異なるが同じメーカーのもので、タンスにしまってあったものを拝借した。 血塗れの特攻服や着物よりは動きやすいジャージの方が都合がいい。 着物は必要ないとして置いていくことにしたが、特攻服は持っていくことにした。 血塗れた特攻服が要らぬ誤解を生む危険があるが、 この特攻服には仲間との絆が、想いが、たっぷり詰まってる。そして“アイツ”の分も。 過去に縋り付くわけではない。 染み付いた血は、“アイツ”-----------いや、六十人の無念の代弁だ。 自分は託されたのだから。全部、背負ってみせる。 一本道を進むとダイナーが見えた。 その時ふと、街の方から煙が上がっているのに気がついた。 「もしかして…火事か?」 「行くぞっ!」 拓海は走り出した。 考えるより早く体が動いた。脳裏に思い浮かんだのは最初に出会った少女の無残な姿。 また誰かが危機に晒されている。十六人目なんて必要ない。 (もうごめんなんだよ…!) 「向井はんっ!待ち!」 「拓海!一人で行くな!」 後ろからの静止の声を聞き足を止めた。 なぜ止めるんだ、また誰かが傷つこうとしている。今行かずにいつ行くのか。 「早くしねぇと間に合わねぇだろ!?」 紗枝は拓海を真っ直ぐ見つめて、言った。 「うちら、仲間やろ?一人で行かなあかんくらい頼りにならへんの?」 「あ-----------------」 紗枝の言葉を聞いて炎のように熱くなった心が涼しくなっていく。 熱くなって、一番大切なこと忘れていた。 「すまねぇ」 無茶な走りに仲間はついて来ない。 「落ち着いたか?罠かもしれないし一人じゃ危ねぇよ」 「ああ、もう大丈夫だ。行こうぜ、皆でな」 再び走りだした。今度はお互い速さをあわせて。 三人は知らない。 最後の捜索の間に、火事の原因を作った五十嵐響子が病院へ入ったことも、 その病院に涼を襲った緒方智絵里がいることも、 北に同じ志を持った大石泉・川島瑞樹・姫川友紀がいたことも、 尋ね人・白坂小梅が港から灯台へ向かったことも、 すでに“十六人目”がいることも。 【B-5(道路)/一日目 午前】 【向井拓海】 【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)】 【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2、特攻服(血塗れ)】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:生きる。殺さない。助ける。 1: 引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する) 2: 東(C-6付近)へ向かう 3:涼を襲った少女(緒方智絵里)の事も気になる 【小早川紗枝】 【装備:薙刀、ジャージ(紺)】 【所持品:基本支給品一式×1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。 1:引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する) 2: 東(C-6付近)へ向かう 3:少しでも拓海の支えになりたい ※着物はB-4の民家においてきました 【松永涼】 【装備:イングラムM10(32/32)】 【所持品:基本支給品一式、不明支給品0~1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:小梅と合流。小梅を護り、生きて帰る。 1:小梅と合流する。 2:他の仲間も集め、この殺し合いから脱出する。 3: 東(C-6付近)へ向かう 前:シンキング・シンク 投下順に読む 次:トリップ・アウト 前:水彩世界 時系列順に読む 次:グランギニョルの踊り子たち 前:アイドリング・アイドルズ 小早川紗枝 次:賽は投げられた、と嘆くのではなく自ら賽をぶん投げる勇気 向井拓海 松永涼 前:Joker to love/The mad murderer 相川千夏 ▲上へ戻る
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◆FGluHzUld2 № タイトル 作者 登場人物 027 ただ陽の輝きの先に未来が待っていると信じて ◆FGluHzUld2 多田李衣菜、日野茜 041 ドロリ濃厚ミックスフルーツ味~期間限定:銀のアイドル100%~ ◆FGluHzUld2 輿水幸子、星輝子、神崎蘭子 登場させた人物 輿水幸子 多田李衣菜、神崎蘭子 日野茜、星輝子 ★(2回)、★★(3回)、★★★(4回)、★★★★(5回) コメント 内容、文体共にロックでパワフルな書き手。とにかくガンガン行こうぜなノリで書いていく。ロックな精神の現れか041話では地の文までとんでもないことに -- 名無しさん (2012-11-21 00 13 07) 名前 コメント ▲上へ戻る